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がん関連血栓症(1)(CAT:cancer associated thrombosis)

がん関連血栓症CAT

がんを発症すると血栓が形成される傾向にあるとされおり、がんに合併した静脈血塞栓症(VTE:venous thromboembolism)、いわゆるCATを引き起こす患者さんがおられます。

外来で化学療法を受けたがん患者の死因を調査した研究(Khorana AA: Venous thromboembolism and prognosis in cancer: Res 125(6):490-493, 2010)では、死因として最も多かったのはがんの進行による病死で71%、次いで血栓塞栓症9%と感染症9%が多く、それぞれ9%を占めていたとと報告されています。

最近参加した勉強会でも乳がん患者さんの予後に関して紹介していた論文「Proportional distribution of cumulative leading causes of death by time since breast cancer diagnosis.」(Patnaik JL,et al. Breast Cancer Research 13, Article number: R64 ,2011) において

Figure 2

                  CVD: cardiovascular disease

上図のように乳がんと診断されてからの死亡原因は10年までは、乳がんの進行によるよるものが多いですが、10年を越えると心血管疾患による死亡の方が多くなるとのデータがあります。

これらより、がんそのものの治療はもちろん重要ですが、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新規抗がん剤の使用を含めたがん治療の発展により、長期の生存が見込まれ、それに伴い心障害や血管障害などの副作用への対応が重要となってきています。

心障害については、過去の記事の抗がん剤治療に伴う心障害のモニタリングをご参照下さい。

血栓症について

がんの種類によって静脈血塞栓症(VTE)の発症率は異なり、腹腔内や胸部のがん、脳のがんや原因不明のがんでは高いことが報告されています。死亡率の高いがん種ではVTEの発症率も高く、がんの悪性度とVTE発症頻度には相関があると考えられていますので、がんの種類に応じてVTEのリスクを考慮する必要があります。

VTE発症率が高い時期は、がんと診断されて最初の3か月間といわれていますので、がん治療の開始時期には特に注意が必要です。さらに、VTE発症後のがん患者では、抗凝固療法中にVTEの再発や出血を起こしやすいことも報告されており、VTE治療中にも慎重な管理が求められます。

膵臓がん、脳腫瘍、食道がん、小腸がん、胆道がん、肝臓がん、造血器腫瘍のうち、ホジキンリンパ腫や骨髄腫ではVTEの発症が高い。これは使用する薬剤による影響もあると考えられます。

殺細胞性抗がん剤のプラチナ製剤(シスプラチン等)とタキサン系抗がん剤が、分子標的薬では血管新生阻害薬(ベバシズマブなど)、チロシンキナーゼ阻害薬と免疫調節薬(サリドマイドなど)などが血栓発症の頻度が高いとされており注意が必要です。

がんの手術周術期において、高齢者は VTE 発症リスクが高く、予防として術後の早期離床、早期歩行、弾性ストッキングの使用などが推奨されています。

「腫瘍循環器診療ハンドブック(メジカルビュー社)」に「外来薬物療法前に評価すべきVTEの発症予測モデル(Khorana score)」の記載があります。

また入院時のVTE予防リスク判定に、「Padua prediction score」による判定について、がんの入院患者におけるリスク層別化にも有用であるとの記載があります。

がんと診断された時に、すでに血栓が形成されている場合もありますので、抗がん剤治療前に血栓の有無について診断し、リスク評価すると今後の治療がより安全にできるものと考えられます。

今まではこれらについて書かれた参考書がありませんでしたが、「腫瘍循環器診療ハンドブック(メジカルビュー社)」が発行されておりますので、是非、詳細については書籍にてご確認下さい。

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次回は、CATに対する薬物療法についてお伝えします。

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